円熟期を迎えた『新五捕物帳』の本DVDに収められている２９話のうち、白井更生が１０話、山野四郎が５話、吉田義昭が５話を数え、三人の脚本家で約７割を担当している。より良い作品を作るために杉良太郎とディスカッションを繰り返し、それぞれの特色を活かして練り上げられたストーリーは、これまで以上に視聴者を魅了し、多くの共感を得た。三者三様の珠玉のエピソードの中でも、代表的な作品を取り上げてみよう。 第８４話は、新五と長い付き合いの漁師・亀吉が、記憶を失っている謎の女・お信を助けたことから、生活を一変させてしまう哀愁に満ちたラブストーリー。純粋無垢なゆえに、周囲に唆されたあげく、愛した女まで失ってしまう哀れな亀吉を、東野英心が好演。根っからの悪人が誰も登場しないだけに、悲劇の結末がより一層伝わってくる。誰もが陥る可能性を持つ人間の心の弱さを活写した脚本は、アニメ『フランダースの犬』(‘75年)などを手掛けた吉田ならではの内容だろう。 第９２話「十字架の光の陰に」は、キリシタンにまつわる物語。江戸で疫病が流行し、誰も患者の看護を手助けしない中、若い姉妹が協力を買って出る。新五も病気に罹るが、姉の献身的な看護で一命を取り留めた。ところが、姉妹を始め看護に協力した長屋の者たちはキリシタンだったため、ご定法の名のもとに処刑されてしまう。スケールの大きさと意外性に満ちたテンションの高い一作で、己の身を顧みずキリシタンたちを助けようとする新五の姿が胸に迫ってくる。 白井更生脚本の第１０１話「明日への旅立ち」は、本作の真骨頂とも言うべきエピソード。徒党を組んで好き放題の生活を送る大店の息子・娘たちに対して、新五が正面から向き合い、大人としてあるべき姿を示していく。放送当時、校内暴力が深刻化しており、その要因の一つに親の無関心さがあった。社会問題を織り交ぜた作品の多い『新五捕物帳』の中でも、主張を全面的に出したストーリーで、堪忍袋の緒が切れた新五が終盤に見せる行動は必見だ。若い男女の新たな旅立ちを見送る爽やかなエンディングも見逃せない。 現状にとどまることなく常に高みを目指し、新たな境地を開拓してきた杉良太郎。そのチャレンジ精神に満ち溢れた至高の作品の数々が詰まった本DVDは、先行き不透明な現代を生きる私たちにとって、道なき道を照らす「明日への光」となるに違いない。